牛歩的写真中心網録”

伊豆半島ジオパークと道祖神を中心にアウトドア活動を、写真で記録しています

闇を裂く道

丹那トンネルの建設に関わる史実を忠実に再現した吉村昭の【闇を裂く道】を読了しました。(残念ながら、図書館には在庫していないので中古本を買って読みました。)
丹那トンネルは、熱海と函南を結ぶ、全長7,804mのトンネルで、大正7(1918)年に着工され、昭和9(1934)年の完成までに当初の計画を大幅に超えて、16年の歳月を費やしました。
この丹那トンネルの工事は、4つの大きな火山断層地帯を横切ったために、土塊の崩落や凄まじい湧水等に阻まれ、多数の人命を失い、環境を著しく損なうという、歴史上稀に見る難工事でした。
著者は昭和62年に、方々に散っていた資料を集め、工事関係者や地元の人々の話を聞いて、壮大な記録文学に仕上げました。
掘削の当初は、落盤事故が頻発し、作業者が閉じ込められたり、命を落とすという大惨事の連続でした。
掘削が丹那盆地の真下に差し掛かると、激しい湧水との戦いです。その一方で、トンネルの上の丹那盆地では徐々に渇水が始まり、わさび栽培や水田の用水が枯渇していきます。被害に悩む丹那地域及び冷川下流の農家の訴えを真摯に聞いて、最後には補償に応じた工事関係者や町村・県庁の方々の努力も素晴らしい物語となっています。
昭和5年の北伊豆地震の際に、断層面で水抜き抗が途中で切断されてしまい、トンネルの修正が必要となります。閉じられた水抜き抗の先には作業者が居なかったのが幸いでしたが、地震による崩落で3名の犠牲者が出ました。
その後も、工事は大変でしたが、熱海側と函南側から掘削された導坑は、ほぼ設計通りの位置(85cmのずれ)で貫通し、無事に東海道線の熱海〜沼津間のバイパスが完成しました。
輸送力の強化と輸送時間の短縮は近代化には必要でしたが、人間が大自然の闇に踏み入ることを作者は危惧していたのでしょうか?


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